太陽ガス 暮らしのインフォメーション

  • home
  • てげてげ日和
  • 【第3回】鹿児島グルメといえば「黒豚」を思い浮かべるみなさまへ

TEGE TEGE BIYORI てげてげ日和

大自然に恵まれ、豊かな食、
魅力的な人が集まる南国・鹿児島—。
「てげてげ日和」では、
鹿児島生活7年目のライター・
やましたよしみが、
鹿児島の素敵な人・モノ・風景などを
ご紹介します。

2016.05.27

【第3回】鹿児島グルメといえば「黒豚」を思い浮かべるみなさまへ


鹿児島といえば、何を思い浮かべるだろうか?

桜島、黒豚、西郷隆盛――。静岡県浜松市で生まれ育ち、10代後半から20代のほどんどを東京で暮らした私。恥ずかしながら移住前、鹿児島をイメージするキーワードはこの3つしかなかった。

食の宝庫・鹿児島。独特の食文化が花開く

南国・鹿児島は九州地方に位置し、海や山、川などの自然に恵まれた土地である。日本列島の南端に位置することにより、南方文化や中国大陸、朝鮮半島の影響を受けている鹿児島の食文化。日本の中央文化の波に大きく動かされながら、海や山の幸を使った独自の郷土料理が発展したと考えられている。

郷土料理には、「つけあげ(さつまあげ)」「きびなごの刺身」「豚骨料理」「あくまき」「鶏飯」などがあり、伝統の味を挙げればきりがない。現在の観光ガイドブックには、黒豚を使用した「しゃぶしゃぶ」や「トンカツ」、黒牛の「焼肉」、「鹿児島ラーメン」「ソーメン流し」「かつおのたたき」「うなぎの蒲焼き」などが掲載され、素材の味を活かした料理の数々からも食の宝庫であることがうかがえる。

鹿児島を知る前は、黒豚と桜島大根くらいしか鹿児島の食をイメージできなかったのが、まるでうそのようだ。今ではお土産につけあげを贈り、きびなごを指で開いて刺身にし、圧力鍋で豚骨を煮て、5月の節句にはあくまきを食べる。鹿児島在住6年目の私の食生活である。

全国区になれない鹿児島のご当地グルメとは?

しかし、声を大にして言いたい! これらの郷土料理や人気のご当地グルメに若干おされ気味の鹿児島の料理がある。それは薩摩地鶏の刺身。通称「鳥刺し」である。

薩摩地鶏は、秋田県の比内地鶏、愛知県の名古屋コーチンと並び、日本三大地鶏のひとつだ。鹿児島県の畜産試験場が昭和30年から何十世代にも渡って改良を続け、高い基準を設けた生産管理体制のもと大切に育てられた薩摩地鶏は、「さつま若しゃも」「さつま地鶏」「黒さつま鶏」の3ブランドの種鶏からなる。

鹿児島では当たり前にある「鳥刺し」。どう当たり前かというと、スーパーの精肉コーナーに鳥刺しがパックされ、何食わぬ顔をして並んでいる。その普通さといったら鮮魚コーナーに魚の刺身が陳列されているのとまったく同じ。この光景、鹿児島県民にとっては当然のことなのだが、全国的にはまったくもって当たり前ではない!

これも鹿児島ではごく見慣れた風景。パックにはおろしにんにくや専用のタレが付いているものもある。

これも鹿児島ではごく見慣れた風景。パックにはおろしにんにくや専用のタレが付いているものもある。

「えっ? 県外では鳥刺し食べないの?」という鹿児島県民が多いことに驚く。鹿児島人にとって鳥刺しは家庭の食卓に並ぶおかずの一品であり、お父さんたちのだれやめ(晩酌)の肴だ。居酒屋に行けば、枝豆の次に鳥刺しがメニューにあるのはごく自然。また、精肉店やかしわ店専門店に鳥刺しを求めて出かけて行くのも日常的である。鳥刺しを扱う専門店は県内に多数点在し、それぞれの家庭がお気に入りのお店をもっているのも鹿児島ならでは。お店ごとに鶏や調理法が異なるので、出先で購入する楽しみもある。

私の地元・浜松や東京でも、鳥刺しはあることはある。けれどもほとんどの場合が、鶏のささみをわさび醤油で和えた「とりわさ」で、小鉢に申し訳程度に盛られているのだった。それは鹿児島でいう鳥刺しとは異なる。

2010年、結婚の挨拶のため初めて訪れた鹿児島。そこでおばあちゃんと義母が私をもてなすために出してくれた料理のなかでひと際光っていたのが鳥刺しだ。(正直にいうと、テーブルいっぱいに料理が出されていたが鳥刺し以外は記憶にない。申し訳ない!)。当時はまだ焼酎が飲めず、お酒といえばビール一辺倒だったが、そのおいしさには言葉を失った。ピンク色に輝くモモ肉はキュッと締まった身を噛みしめるほどに、その身と炙った皮からジュワッと旨味が溢れて口いっぱいに広がる。優しい色合いの胸肉は、柔らかくてまろやかな甘さが小気味よい。身と皮とのコントラストが絶妙だ。火を通した鶏とは違った独特の歯ごたえと味わいはたまらない。鹿児島の甘露醤油と薬味のにんにく、付け合わせの玉ねぎのスライスが鳥刺しの風味を引き立てる。わっぜ(とても)おいしい!

それから数カ月後、「鳥刺しがあるから鹿児島に住もう」と決意し、移住した。この話をするとこちらの人は驚いた顔をするが、これは実話だ。それほどまでに私にとって鳥刺しは魅力的ということである。鹿児島生活6年目を迎えてもまだ同様の理由で移住した人とは出会ったことはないが、鳥刺しを嫌いだという鹿児島人も知らない。

他県へ向けてもっと鳥刺しをアピールしてもよいのではないかと思う。こんなにもおいしいものを鹿児島のものだけにしておくにはもったいない。ぜひ観光で訪れた人には召し上がっていただきたい逸品だ。

お気に入りのかしわ専門店で購入した鳥刺し。玉ねぎのスライスを添えて「いただきます!」。

お気に入りのかしわ専門店で購入した鳥刺し。玉ねぎのスライスを添えて「いただきます!」。

かつて地鶏は庭先を“歩く野菜”だったそうだ。どこの家でも放し飼いにし、祝い事や四季の行事、祭りの料理に使用するごちそうであった。大事な来客があると主人自らが庭先へ下りて包丁を振るい、鶏をつぶしてもてなす。ささみや手羽肉を刺身に、残りは骨付きのままぶつ切りにして野菜と煮込み、余すところなく使い切る。

全国には鹿児島の鳥刺しのように地元では定番メニューとして人気がありながら、ご当地グルメとして4番手、5番手に留まり、なぜか全国区になれない料理がまだまだあるだろう。私は黒豚よりも断然鳥刺し派! と言いつつ、黒豚のトンカツは大好物だけれど。

取材・執筆
やましたよしみ

フリーランスの編集者・ライター。鹿児島県薩摩川内市在住。浜松市出身。
大学卒業後、IT関連企業を経て、出版社、編集プロダクションに勤務。
主に女性向けフリーペーパーや実用書、育児情報誌などを制作。
2011年、東京から鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。
得意分野は、食と暮らし、アート。一児の母でもある。
■ブログ http://yamashitayoshimi.blogspot.jp

てげてげ日和 TOPに戻る