2017.06.12
【第15回】世界有数の活火山・桜島。日常的な噴火とともに暮らす鹿児島の人々もまたすごい!
このコラム『てげてげ日和』は、毎回わたくし、やましたが取材したい人やモノを自ら提案させていただき、取材・執筆している。「第15回のテーマなんですが、満を持して“桜島”にしたいんですけど…」。今、自分がそう言ったことを正直、猛烈に後悔している。
桜島ーー。鹿児島県ならずとも、日本国民の誰もが知る鹿児島のシンボルだ。それについて私みたいなちょろっとしたライターがああでもない、こうでもないと語るなんて、なんだかおこがましい気がしてきた。しかしならが締め切りも近づき、今さらテーマも変えられず「書くっきゃない!」というところまで追い込まれている。私が“勝手に”考える桜島について、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。
毎日のように噴火する。それが桜島だ!
桜島は錦江湾に浮かび、高さ1117m、周囲が約52km。北岳と南岳のふたつの主峰からなる複合火山だ。昔は文字通り島だったのが、1914年に起こった大正噴火の際に流れた溶岩により海峡が埋め立てられ、大隅半島の一部になったという。と、ここまで一応、ライターらしく(?)桜島について簡単にまとめてみた。よくよく考えたら、溶岩が流れて陸とつながるとは恐ろしい。しかし、鹿児島県外の人が驚くのが、今現在も小規模ながら毎日のように噴火している、という点だ。
私が東京から移住してきた2011年は996回も爆発的噴火が起き、観測史上最多を記録した年でもある。最初は噴火が起きると火山灰がハラハラと舞い落ち、その度に興奮していた。「灰だ、灰が降ってる!」なんてハイになって。(失礼!)
当初、鹿児島市内で家探しをしていたときは不動産屋さんに「桜島が眺められる部屋に住みたい」と希望を伝えたこともある。すると不動産屋さんはキョトンとしていた。それを鹿児島の友達に話すと「よしみちゃんは静岡県出身だけど、富士山が見える部屋に住みたい? 優先順位はそこ?」と言われ納得した。ぐうの音も出ない。
鹿児島市内で暮らしているときは、東京から引っ越してきたと言うと、みな口々に「鹿児島はいいところだけど灰がね。灰が降らなきゃいいところなんだけど」なんて言っていたのが印象に残っている。そんなに灰がイヤなのか、と思ったことを覚えている。実際、毎日のように雄々しい桜島を望み、日々爆発を目の当たりにして、恥ずかしながら私は生まれて初めて“地球に生きている”ことを実感したのだった。
ドカ灰? 克灰袋? 灰降る町ならではの言葉とモノ。
ある日、鹿児島市内の中心街・天文館を自転車で走っていると、目の前が真っ白になり、ほんの少し先もよく見えない状況になった。これが鹿児島県民でいうところの「ドカ灰(ばい)」である。空から降り注ぐ火山灰で街中が真っ白、あっという間に辺り一面が灰色になり、自転車も着ていた洋服も、頭も顔も、灰だらけになった。積もった、というほうが正確かもしれない。硫黄らしき香りも漂う。
この日は全国ニュースにも取り上げられるほどの噴火だったが、周りの人たちはみな普通、というかまったく動じていない様子だった。初めのころはこの市民の“普段通りっぷり”に驚いた。その後もニュースになった日は、よく静岡の実家から心配する電話がかかってきたが、「別に大丈夫」としか言いようがない。それが灰降る町・鹿児島だから。ちなみに、家の周りやベランダなどに積もった灰は、灰専用の黄色いゴミ袋“克灰袋”に入れて捨てる。克灰袋は非売品で、無料提供されている。
桜島は日常的に噴火を起こす。そのため、鹿児島の天気予報では、“桜島上空の風向き予報”なるものがある。噴火をしたからといって、毎回灰が降ってくるわけではない。風向き次第で、鹿児島市内方面か、大隅半島方面か降灰する場所が変わる。桜島の噴火を目視すると、冷静に風向きをよむ人も多い。
10代からコンタクトレンズを使用していた私だったが、鹿児島へ来てからすっかりメガネユーザーになった。目に灰が入るのが理由。薩摩川内市に越してからは降灰に悩まされることもなくなったが、「あ、灰がない世界って快適!」と気づいたのはずいぶん経ってからだった。噴火による降灰があるエリアに暮らしていると、とにかくそれに慣れてしまう。鹿児島で生まれ育った人は、幼いころから“桜島が噴火する→灰が降る”が当たり前なのだから、慣れていて当然なのだろう。
観光客のみなさま、桜島を旅するなら現地情報をチェックして!
こんな風にカジュアルに桜島の噴火について語っているが、桜島は世界有数の活火山であり、ひとたび大噴火が起これば、鹿児島をはじめ九州は甚大な被害を受ける可能性がある。昭和火口の半径2kmは1955年の爆発以降、立ち入り禁止が続いている。それでも、桜島では今も人々が暮らしを営み、市民は降灰とともに生きているのだ。南日本新聞社のウェブサイトでは、1分ごとに撮影された桜島ライブカメラの映像をチェックできる。決して危機管理がなされていないわけではない。むしろ、桜島では噴火に備えて多くの避難港が設置されていたり、毎年大規模な避難訓練が行われていたり、防災教育にも力を入れ防災対策は徹底されているという。繰り返しになるが、桜島の噴火は日常で、人々は普通に暮らしている。どうか観光客のみなさまには“噴火しました!”というニュースに惑わされずに、現地の情報をきちんとキャッチして観光に来てね! と言いたい。
すごいよ、桜島。地球の息吹をまざまざと感じられる。まだ見たことのない全国の方々は、ぜひ一度目の当たりにしていただきたい。最後に、桜島と鹿児島市を結ぶ桜島フェリー内では、立ち食いうどん“やぶ金”のうどんもご賞味あれ!
やましたよしみフリーランスの編集者・ライター。鹿児島県薩摩川内市在住。浜松市出身。
大学卒業後、IT関連企業を経て、出版社、編集プロダクションに勤務。
主に女性向けフリーペーパーや実用書、育児情報誌などを制作。
2011年、東京から鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。
得意分野は、食と暮らし、アート。二児の母でもある。
■ブログ http://yamashitayoshimi.blogspot.jp