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TEGE TEGE BIYORI てげてげ日和

大自然に恵まれ、豊かな食、
魅力的な人が集まる南国・鹿児島—。
「てげてげ日和」では、
鹿児島生活10年目のライター・
やましたよしみが、
鹿児島の素敵な人・モノ・風景などを
ご紹介します。

2016.12.08

【第9回】タクシーはタクシーでもロバタクシー!? 鹿児島県阿久根市でロバタクシー実現に向けてロバと暮らす松元薫久さん・寿乃さん夫妻。


鹿児島県阿久根市は“アクネ。うまいネ。自然だネ。”という町のキャッチコピーが示す通り、たくさんのおいしいものと多くの自然に恵まれた土地だ。この地で生まれ育ち、カフェ「ハモニカン」を営む松元薫久(しげひさ)さん、寿乃(じゅの)さんご夫妻が“ロバタクシー”を始めるためにロバを飼育している、というので話をうかがってきた。“阿久根でロバ? なぜにタクシー? もしや壮大な町おこし計画?”と、たくさんのクエスチョンがグルグルと頭の中を巡るーー。

もともとロバが飼いたかった!?

昔の塩屋を改装したカフェ「ハモニカン」の裏口に着くと、そこにずっと前からいたかのようにロバがたたずんでいた。小屋には“ロバの「ハク」H28 4月生 オス”と看板がある。ハクに近づくとハクも私に近寄ってきた! ロバって思っていたよりも小さい!、というのが第一印象だ。早速、柵から少し離れて写真を撮ろうとすると、ハクがついて来てなかなか写真が撮れない。妙に人懐っこくてかわいい!

小屋の中を自由に動き回るハク。ロバは記憶力がとても良いのだそう。

小屋の中を自由に動き回るハク。ロバは記憶力がとても良いのだそう。

ハクの住処はこちらのカフェ「ハモニカン」の裏手にある。

ハクの住処はこちらのカフェ「ハモニカン」の裏手にある。

到着して早々、薫久さんに“ハクはどこからやって来たのか?”“何を食べているのか?”“どんな風に飼育しているのか?”など、興味の赴くままにあれやこれやと質問した。そして“なぜロバタクシーを思いついたか?”の問いに「もともとロバを飼いたかったんだよね」との答えが…。ロバを飼う、などという発想はどこから来たのか、俄然興味が湧く。

薫久さんとロバの出会いは20代前半のころにさかのぼる。タイからインドまでを陸続きに旅しているときに中国の奥地やチベット、ネパールでロバと触れ合った。以来、いつかロバを飼いたいという想いを抱いてきたそうだ。旅を経て、それは薫久さんの頭のほんの片隅にあることだったのだが、ときおり想いを口にしてきたことで実現した。

家族の反対はなかった。

夫が突然「ロバを飼いたい!」と言い出したら世の妻たちは何と言うだろうか。私なら驚き、呆れ、“気は確かか! 目を覚ませ!”と夫を揺さぶるかもしれない。けれど、寿乃さんはまさかの二つ返事でOKしたという。「しげさんは覚えていないんだけど、昔からときどきロバの話をしたり、ロバを飼いたいと言ったりしてたんだよね」と寿乃さん。だから、その想いがただの思いつきでないことを知っていたのだ。後日、薫久さんのお母さんや、寿乃さんのご両親に話しても、みな一様に「ロバ、いいね!」と賛同してくれたそうだ。なんて“おもしろ素敵”なご家族なんだろう。

ロバとはまったく縁もゆかりもない阿久根の地。“阿久根×ロバタクシー”は、どんな化学変化が起こるのか未知数である。そもそも薫久さんが参加している、産業起こしを実践する人材育成のための塾・かごしま産業おこし郷中塾の飲み会の最中にポッと発言したひと言だったそうだが、それは家族の賛同を得て動き出した。

まずはロバ探し。宮崎県の財部でロバ園を運営している獣医さんの元へ向かうと、ちょうど妊娠中の母ロバがいたという。それから無事にハクが誕生してとんとん拍子に話が進んだ。餌のこと、住処のこと、接し方など、ロバを飼ううえで必要なことは先生から学ぶ。餌の竹やすすきの穂などは寿乃さんのご実家の裏庭から調達し、小屋は薫久さんと寿乃さんのお父さん、ご近所さんの三人で建てた。

カフェ「ハモニカン」の店内。働く寿乃さんと、次男を抱っこする薫久さん。

カフェ「ハモニカン」の店内。働く寿乃さんと、次男を抱っこする薫久さん。

ハクと触れ合う寿乃さんのお父さんと次男。次男はハクとほぼ同月齢!

ハクと触れ合う寿乃さんのお父さんと次男。次男はハクとほぼ同月齢!

ロバタクシーの未来の姿とは?

「ハクが来てからここは小学生たちの寄り道スポットになってるんだよ。野菜の切れ端とか、餌を持って来てくれる人も」と薫久さん。ロバのハクは早くも地域の人たちに愛されているようだ。取材当時、生後7カ月だったハクだが、ロバは大人になるまで約20カ月はかかる。今はロバタクシー実現に向けて手綱がなくても安心して歩けるように、少しずつ訓練中とのこと。薫久さんによると「ロバはきちんと信頼関係を築けば、母ロバよりも人間に懐くと言われている」のだそう。だから今は、ハクの成長を見守りながらしっかりと関係を築いているところ。

薫久さんに甘えるハク。なんだか顔が似ているような…気がする(笑)。

薫久さんに甘えるハク。なんだか顔が似ているような…気がする(笑)。

キュートなロバのハクが、いつかロバタクシーとして阿久根の町並みをせっせと歩くことになると想像すると何だか少しハードなように思うが…。「タクシーとはいえここからここまで、と人を運ぶとかは考えていないんだよ。だから運賃は無し! そのかわりにハクのグッズを購入してくれた人に乗ってもらおうと思って。お客さんには阿久根の海辺をゆっくりと散歩するように楽しんでもらえたらうれしいかな。海辺の夕陽とロバタクシー、ぴったりだと思うんだよね」と薫久さんは語る。これから作るというグッズもバッヂや人形など、手軽に購入できてハクや、ハクと過ごした時間と想い出が残るようなアイテムを想定しているそうだ。

最近デザインができあがったばかりのロゴマーク!

最近デザインができあがったばかりのロゴマーク!

松元さん夫妻が考えている「阿久根×ロバタクシー」は、とてもあたたかい。単純に町おこしという言葉では言い尽くせない想いが込められている。ロバのハクの成長を愛で、ハクとの暮らしを愉しみ、信頼関係を築いていくなかで“いつかお客さんを乗せられるようになったら実現しよう!”というもの。阿久根の地域の人や観光客に、ハクとの時間を共有してもらい、阿久根をもっと好きになってもらう、そんな心のこもったロバタクシーの未来がここにある。

“アクネ。うまいネ。自然だネ。ロバもいるネ。”

“アクネ。うまいネ。自然だネ。ロバもいるネ。”

最後に、松元さん夫妻とハク、ハイチーズ!

最後に、松元さん夫妻とハク、ハイチーズ!

▼店舗情報
ハモニカン

鹿児島県阿久根市本町108番地
TEL 0996-72-0993
営業時間 10:00~17:00
定休日 日曜・月曜
▶ハモニカンfacebookページ

取材・執筆
やましたよしみ

フリーランスの編集者・ライター。鹿児島県薩摩川内市在住。浜松市出身。
大学卒業後、IT関連企業を経て、出版社、編集プロダクションに勤務。
主に女性向けフリーペーパーや実用書、育児情報誌などを制作。
2011年、東京から鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。
得意分野は、食と暮らし、アート。二児の母でもある。
■ブログ http://yamashitayoshimi.blogspot.jp

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