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TEGE TEGE BIYORI てげてげ日和

大自然に恵まれ、豊かな食、
魅力的な人が集まる南国・鹿児島—。
「てげてげ日和」では、
鹿児島生活10年目のライター・
やましたよしみが、
鹿児島の素敵な人・モノ・風景などを
ご紹介します。

2018.12.26

【第22回】ヨガの哲学や文化を伝える。「アシュタンガヨガ [ ३ : トゥリ] 鹿児島」主宰・西澤佑香さん。

「心は整っているけれど、いま身体が整っていないのね」。彼女が私にそう言ったのは、確か6年前のこと。東京から鹿児島への移住に、結婚生活…、慣れない土地での新しい暮らしに体調を崩しがちだった私。彼女は会うごとに体調をパシッと言い当てる。毎回、“なぜ見ただけでわかるの!? ヨガの先生ってすごい!”と感動したものだ。今回の『てげてげ日和』にご登場いただくのは、「アシュタンガヨガ [ : トゥリ] 鹿児島」を主宰する西澤佑香さん。数年ぶりに会った西澤さんは神々しいほどに、エネルギーに満ち溢れていた。

アシュタンガヨガのプライベートレッスンは、呼吸法からスタート!

スタジオ近くに着くと、窓から身を乗り出して「ここー!」と手を振ってくれた。久しぶりに会った彼女には、一切の無駄がないように見える。同じ産後の身体にも関わらず、そのたたずまいの違いは歴然。あいさつも早々に、さっそくヨガに入る。一対一のプライベートレッスン。事前にストレッチワークを中心としたものを行うことが知らされていた。ヨガマットを敷き、そこへ座る。すべてを彼女に委ねるつもりで、背筋を正す。「座位はとれてるね」の声にホッとする。

そこから呼吸法を習う。これまで体験したヨガでは、ポーズの動きとともに呼吸のガイダンスはあったが、具体的に呼吸の仕方を教えてもらうのは初めてのことだった。アシュタンガヨガの呼吸法をウジャイ呼吸法という。「は」の口で喉の奥を狭めて音を出すようにしながら息を吐く、そして吐き切ったら一拍おいて鼻から自然に息を吸う。できるようになるまで、その呼吸を繰り返す。

明るく清潔感のあるスタジオ。この日は午後からレッスンが行われた。

呼吸法を指導してくれる西澤さん。力のある瞳に飲み込まれそうになる。

呼吸法の練習が終わると、いよいよ動きに入る。ここから座位をメインにいくつかのポーズをし、気がついたら開始から1時間半が経っていた。わお、体験記のはずが肝心の体験が書けない! それはもう本気でヨガに取り組んでいたため、メモを取る余裕などまるでなかったのだ。(言い訳ですね、すみません)。ただ、彼女に教わったヨガはこれまで体験したどのヨガのレッスンとも違った。

「ヨガは自己体験であり、文化的な活動である」

彼女の手が“魔法の手”のようだったのだ。どういうことかというと、ポーズの最中に彼女がスッと私の身体に手を添えてカタチを正すと、途端に身体が心地よくなる。それは熟練者のマッサージでも受けているかのような、ほとんど快感に近いものがあった。こんなアジャストメントを受けたのは初めてのこと。

ヨガ経験者である私だが、今回まったく新しいものに触れた感覚だった。

23歳でアシュタンガヨガと出合い、師匠から「君はどうありたいの?」と問われた西澤さん。それから彼女はアシュタンガヨガの魅力にハマっていく。「ヨガは純粋な自己体験なんですよ。答えは自分の中にあって、ヨガはそれを知るためのプロセスなんです」。現在ではフィットネスとして広く周知されているが、それについて彼女はこう話した。「ヨガは超文化的な活動」である、と。

東京とアシュタンガヨガの総本山・インドのマイソールにそれぞれ師匠をもち、ヨガを探求する西澤さん。「ヨガにはインドという国の背景、歴史があるんですね。心の平穏を保つ方法をここまで追求させる何かがあった。それもヨガの一面なんですよ」。昨今では運動法としての側面ばかりが注目されがちだが、彼女の話を聞いているとまるで異なるように思えた。西澤さんは「ヨガは言語」とも言う。指導する立場になり、その意識はもっと確固たるものになったのだろう。「ヨガのクラス中に感動することがあるんです。ポーズを見せて、言葉で伝えて、身体を触って…。シェアしたヨガの哲学が伝わったときに感動するんです。ヨガという言語、コミュニケーションが届いてうれしいという気持ちですね。けれども、難しいのはタイミング。哲学も適切なときに伝えなければ“哲学の支配”になる。そういう意味でも少人数制でやっていきたいと思っているんです」。

ヨガというと美しくヘルシーなイメージをもって臨む人が多い。西澤さんはそこに警笛を鳴らす。「他人のイメージに自分を重ねすぎてしまったり、不安や焦りから過剰に変化の保証を求めてしまったりする人も少なくない。視野を広くすると、“正解がないことが正解である”ほうが断然多いんです。けれども、視野が狭くなると一時的な外の正解へ心が向いてしまう。それに気づくことそのものが本来のヨガなんです」。さらに、ヨガの流派のなかでもとりわけ運動量が多いとされるアシュタンガヨガについて、彼女は「やっていて気持ちいいだけじゃないですし、意識がいまではなく先のイメージに向けばケガもする。生徒さんは自然とそれに気づいて、受け身なカスタマーを卒業していきます。自力でプロセスを歩み、見るようになる。だから成長する。アシュタンガヨガは、わざとそういう風につくられているんですね。古典的だけれど、それがすごく単純な近道でもある」と語る。

「ヨガは実践」と西澤さん。いまも東京やインドへ足を運び、師匠のもとで練習を続けている。

ヨガを通して知る、身体のもつ力。

西澤さんが講師としての目標のひとつに「10~20代の若者へのヨガの普及」を挙げる。「いま未病とか、ライフ・オブ・クオリティという考え方があるけれど、働き盛りの時期は身体が資本でありながらも後回しになりがちですよね。ちょっとした不調を自己メンテナンスできることは人生の財産だと思うんです。それにヨガを行うことで自己理解が深まる。だからこそ若年層の方にもぜひ取り組んでもらいたい」。この想いは、自身が20代前半からヨガを続けるなかで体験を通してさらに強くなったという。「妊娠出産、ケガや病気をきっかけにヨガを始める方は多い。けれども、事後ではなく普段からヨガに親しむことで、より自分の意志や身体に信頼をおける状態になる。大きなライフイベントや突然の出来事にも、自信を持って挑むことができるようになるんです」。心身への関心が高まる30代以降のニーズが高まっているヨガ。西澤さんは「もちろん大人だからこその楽しみ方もある」とも言う。けれども、確かに10代の多感な時期にヨガに出合えていたら、若いときに誰しもあるような悩みや迷いからもっと早く抜け出して、もう一歩深く自分や世の中を知ることができたかもしれない。

気づけばスタジオの外は暗くなっていた。少し慌てて取材を終える。「いまはどうしても息子中心の生活」という西澤さん。一緒にスタジオを出るころには、すっかり柔和な表情になっていた。ていねいに私を見送ってくれた彼女を振り返る。旦那さんと2歳の息子さんの待つ家へと、颯爽と自転車を漕いで行く後ろ姿が見えた。身体は未だ心地よさに包まれ、心はずいぶんと解放されている感じがした。今日までの疲れきった身体がヨガの真理に触れたことで、ほんの少しほどけた気がする。

▼西澤佑香

1985年鹿児島生まれ。2008年、東京在住中に出逢ったアシュタンガヨガの奥深さに魅了され、2012年よりその発祥継承地である南インドマイソール・KPJAYI Sri.K.Pattabhi.Jois Ashtanga Yoga Institute」にて、R.Sharath.Jois師に師事。2017年には同師より正式指導者認定を授与。現在、故郷である鹿児島にて【アシュタンガヨガ [ : トゥリ] 鹿児島】を主宰し、ここを拠点にアシュタンガヨガの伝統・源流的な手法であるマイソールスタイルの指導と普及に務める。


アシュタンガヨガ [ : トゥリ] 鹿児島

鹿児島市小川町12-13 G1ビル3F

開講時間 火~日曜午前、水曜夜

E-mail tri.kagoshima@gmail.com

HP https://www.tri-kagoshima.com/

*新規受講の受付は2019年3月からになります。ご了承くださいませ。

取材・執筆
やましたよしみフリーランスの編集者・ライター。鹿児島県薩摩川内市在住。浜松市出身。
大学卒業後、IT関連企業を経て、出版社、編集プロダクションに勤務。
主に女性向けフリーペーパーや実用書、育児情報誌などを制作。
2011年、東京から鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。
得意分野は、食と暮らし、アート。二児の母でもある。
■ブログ http://yamashitayoshimi.blogspot.jp

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