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TEGE TEGE BIYORI てげてげ日和

大自然に恵まれ、豊かな食、
魅力的な人が集まる南国・鹿児島—。
「てげてげ日和」では、
鹿児島生活7年目のライター・
やましたよしみが、
鹿児島の素敵な人・モノ・風景などを
ご紹介します。

2017.04.04

【第13回】鹿児島の風景を美しいキャンドルのあかりで灯す、キャンドル作家「Mountain High Candle」の山田裕行さん。


自身の28歳の誕生日当日、兄が亡くなったーー。
お兄さんの死をきっかけにキャンドルをつくり始めたキャンドル作家がいる。それが「Mountain High Candle」の山田裕行さんだ。

日置市の江口浜という美しく長い海岸線沿いにアトリエをかまえ、そこでの販売だけでなく音楽イベントやチャペルでのデコレーションなどを手がけたり、ワークショップを開催したり、山田さんの活動は多岐に渡る。仲間たちからは「山ちゃん」や「ヒロさん」と呼ばれ、みんなの兄貴的存在でもある。そんな彼がキャンドルをつくり、灯し始めたきっかけを知ると、あの雅な光の理由もすっと理解できた。

アトリエ内で灯された「Mountain High Candle」のキャンドル。(画像提供/Mountain High Candle)

アトリエ内で灯された「Mountain High Candle」のキャンドル。(画像提供/Mountain High Candle)

木の温もりが感じられるアトリエ。山田さんのキャンドルのすべてがここでつくられる。(画像提供/Mountain High Candle)

木の温もりが感じられるアトリエ。山田さんのキャンドルのすべてがここでつくられる。(画像提供/Mountain High Candle)

兄の足跡を辿り、インドで見つけたもの。

もともとはアパレルで働いていた山田さん。自身の誕生日に2つ年上の兄・貴行さんが亡くなったのだが、その死に目には会えなかった。なかなか兄の死を受け入れられずにいたが、月日が経ち、少しずつ前を向き始めたころ、ふとインドへ行きたくなったという。「兄貴が持っていたインドのガイドブックがあって、それを手にして旅に出たんだよ。兄貴が泊まったであろうゲストハウスに泊まったり、ガンジス川で沐浴をしたり。兄貴の足跡を辿るような旅をした」と山田さん。インドでの旅の途中でも自問自答が続いた。“自分は兄貴になりたいのか”、“生まれ変わりたいのか”、“何者かになりたいのか”と。そんな苦しい旅のなかで自分を受け入れられるようになったのは、あるひとりの女の子の存在があったからだという。

「インドで気になる女の子ができて、2週間くらい一緒に旅をしたんだよね。俺、インドでも女の子のお尻を追っかけていてさ(笑)。でもそのときに“無理に変わらなくていいんだ”と自分自身を受け入れられた。本当に気持ちが楽になって悟りがひらけたような感覚だったんだよ。冗談のようだけど本当の話」と語る山田さん。それからネパールへも足を伸ばし、旅は2カ月ほど続いた。

尊敬する人の死。キャンドルのバトンを渡される。

帰国して仏壇にある兄の遺影を見ると、またモヤモヤとした気持ちになった。半年くらいは仕事もできずにいた。そんなとき、ふとキャンドルをつくってみようと思い立ったという。「周りにはものづくりをしている人が多かったし、自分も何かつくりたいなと思ったんだよ。それでキャンドルを思いついた。独学でつくってみて、火を灯したときにこれまでになく心が落ち着いたんだよね」と山田さん。そこから兄の名前・山田貴行を表す「Mountain High Candle」が誕生した。

キャンドル製作を始めた山田さんは、次々にキャンドルをつくり、ほかのキャンドル作家の作品を研究した。キャンドルをノコギリで半分に切って、中がどうなっているのかを調べることもした。それでもつくっても、つくっても、食べて行けない日々が続く。「Mountain High Candle」として兄を追悼するためのイベントを開催して、もう辞めてしまおうと思っていたら、今度は鹿児島でキャンドル作家として第一線で活躍している方の訃報があった。山田さんは「そんなに親しい間柄ではなかったんだけど、お通夜とお葬式に参列したんだよ。すると先輩から“鹿児島のキャンドル業界は次はお前が背負っていけ”というようなことを言われて。そのときは哀しみのなかでもあったし、“キャンドル業界ってなんよ?”と思ったんだけど、そのときにもう自分の意志だけでは簡単に辞められないんだな、とも感じたんだよね」と話す。たまに会えばアドバイスをくれ、あるときは「ここから先は自分で考えてやってみなさい」と声をかけてくれた、尊敬するキャンドル作家の死。「バトンを渡してもらったような、そんな感じがしたかな」と彼は振り返る。

色とりどりのキャンドルからは温かな光が溢れる。(画像提供/Mountain High Candle)

色とりどりのキャンドルからは温かな光が溢れる。(画像提供/Mountain High Candle)

キャンドルを灯して育てる、という作業。

「キャンドルはつくるだけじゃなくて、火を灯したいんだよ」と山田さん。キャンドルをつくっていて一番の喜びは「灯すとき」と言い切る。「毎回自分が満足できるものがつくれたら、つくっているときが一番楽しいと思えるかもしれないけれど、今はまだそうじゃない。ようやくキャンドルづくりの入り口に立てた、という感じ。知識・技術面ともに課題はある」と話す彼におごりはない。少し前までは「腹くくって命がけでやっている」とわかってもらいたくて、ストイックになり過ぎていたが、今はもっとゆったりとした気持ちでつくっていきたいという。

アトリエでの仕事はキャンドルの製作のほかに、つくったキャンドルを灯して「育てる」という作業もある。「屋外イベントのデコレーションで使うキャンドルは、風で火が消えないように芯を沈めなくてはならないんだよ。だから完成したキャンドルの芯を調整しながら20時間ほど灯す。火の番をしているときはこの仕事ならではの喜びがあるね」と語る。

“Mountain High Candle”なる場所とは?

今後の展望をうかがうと「“Mountain High Candle”なる場所をつくること」という。「たまに“マウンテンなのに海?”と言われることがあるんだよ(笑)。けれど、本当は高い山の上でつくりたんだよね。家と工房が隣り合わせにあるような、そんなところで製作ができればいいかな。でも、それは自分に家族ができたときなのかな、と思ってる」と山田さん。そんな彼が「半年に一度のぜいたくな趣味!」というのが自身がデコレーションを手がけ、主催する音楽イベント“afterglow”だ。「ハタチくらいのときにCDで聴いて以来、ずっと新作を聴き続けてきた音楽家のCalmさんが、ちょうど一年前に突然アトリエに現れてさ。もう“ウワーッ!”って本当に驚いて。その日はいろいろと話をしたんだけど、Calmさんがアトリエの窓から海を眺めを見て“ここでDJがしたい。ここでやろう!”と言ってくれたんだよ。今度の“afterglow”は3回目になるんだけど、このイベントはCalmさんとの約束を果たすかたちで始まったんだよね」。一度目は大雨で海と夕陽とキャンドルのロケーションが叶わなかった。今回も「キャンドルのデコレーションは天候次第。成功するか否かはギャンブルみたいなもの」と笑う。それでも山田さんはイベントを行う。

 アトリエから見える江口浜の夕暮れ。ここでしか見られない景色がある。(画像提供/Mountain High Candle)

アトリエから見える江口浜の夕暮れ。ここでしか見られない景色がある。(画像提供/Mountain High Candle)

過去のafterglowでのアトリエのデコレーション風景。(画像提供/隈元智子)

過去のafterglowでのアトリエのデコレーション風景。(画像提供/隈元智子)

最初は兄を供養する気持ちでつくり始めたキャンドル。けれど、それはいつしか彼自身が生きるためのものに変わった。そして、「今は支えてくれる周りの人やキャンドルの灯火を見て元気が出たと言ってくれる人、誰かの希望になれたらと思ってる。“Mountain High Candle”は“A Light of Hope”というのが最終的なところかな」と山田さんは語る。最後に言い残したことは? と尋ねると「同じ敷地内にあるCafe aka’akaの萩原ファミリーに感謝の気持ちを伝えたい」という。「本当に周りの人には恵まれてると思うんだけど、萩くんはどんなに無茶なお願いでもいつも笑顔で受け入れてくれる。だからこの場を借りて“いつもありがとう”と言いたい」と山田さん。彼はどこか不器用で、とても繊細で美しい灯火が宿るキャンドルをつくる。彼自身をひっくるめて人を魅了する。やっぱり仲間に慕われる理由のある、みんなの兄貴だ。

アトリエでの山田さん。とてもシャイなので、なかなかこちらを向いてもらえず(笑)。

アトリエでの山田さん。とてもシャイなので、なかなかこちらを向いてもらえず(笑)。

▼Atelier Mountain High Candle

鹿児島県日置市東市来町伊作田6640-2
TEL 090-7441-5613
営業時間 12:00~19:00
定休日 火曜・水曜(イベント開催日はお休み)
Facebookページ https://www.facebook.com/mountainhighcandle/
HP http://mountainhighcandle.com

取材・執筆
やましたよしみ

フリーランスの編集者・ライター。鹿児島県薩摩川内市在住。浜松市出身。
大学卒業後、IT関連企業を経て、出版社、編集プロダクションに勤務。
主に女性向けフリーペーパーや実用書、育児情報誌などを制作。
2011年、東京から鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。
得意分野は、食と暮らし、アート。一児の母でもある。
■ブログ http://yamashitayoshimi.blogspot.jp

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