2018.10.05
【第19回】想いが作品の美しさをつくる。陶磁器作家・城雅典さん。
鹿児島のさまざまなイベント会場で出くわしては、ほんの少し立ち話をする。柔和な笑みが印象的な陶磁器作家であり、陶芸家の城雅典(じょう まさのり)さん。ここ何年もそのようなお付き合いで、その素顔はベールに包まれている(ように感じる!)。断片的にしか知らない城さんのこと。わかっているのは、どこか素朴で気品のある器をつくる人、ということだ。今回の『てげてげ日和』では、城さんの美山にある工房を訪ね、彼のこれまでの道筋や、ものづくりに対する想いを伺った。
北薩・長島町の焼酎の蔵元で働きながら陶磁器づくりをしていた城さん。昨年、蔵元を退職し、現在は長島と美山の工房を行き来しながら、焼き物を制作しているという。「ここがおもしろいから、いろんな人に遊びに来て、見て欲しいんですよね」と城さん。今年始めに紹介されたという美山の窯元は、1階が店舗、2階が工房、3階は、かつて職人たちが寝泊まりしていた部屋になっている。2階は、ずいぶんと使われていなかったそうだ。
取材のためにテーブルにつくと、城さんは自身の経歴をまとめた二枚の紙を渡してくれた。『てげてげ日和』がスタートして2年以上になるが、こうしてプロフィールを用意してくれた人は初めてだ。感激とともに、私は事前に考えていた質問案をポイッと捨てる。城さんのペースに委ねることにした。
陶磁器作家が陶芸に出合ったとき。
茨城県日立市出身の城さん。陶芸との出合いは、つくば市にあった図書館情報大学(現在は筑波大学に合併)の3年生のころに誘われて入った陶芸サークルだそう。「院生の先輩が陶芸サークルを復活させて。そのとき美術サークルで落書きのようなことをしていたので、声をかけられたんです。本当に軽い気持ちで始めました」。サークルでは、ろくろでの制作と、形に制限のない手びねりでの制作をしていた。大学卒業後、有田焼の産地にある佐賀県立有田窯業大学校にて陶磁器を学ぶ。図書館情報学からまるで別分野への方向転換にご両親は何とおっしゃったのか、と尋ねると「本当によく許してくれましたよね」と城さんは笑う。この大学校で「美術工芸品をつくるイメージから、使いやすさを考えるユーザーの目線」を学び、「ものの見方、考え方が変わった」という。
何度も繰り返し「一番大変だった」という有田の窯元勤務を経て、佐賀大学での〈ひと・もの作り唐津〉プロジェクトに研究員として参加。授業のアシスタントから文書作成、グラフィックデザイン、焼き物の作製補助、企画、販売まで幅広くサポート業務に携わる。このころ「ルーツは同じだけれど、有田と唐津の焼き物の違いが見えた」と話す。そして、美術理論や陶芸はもちろん、木工や染色など、ひと通りの工芸も見ることができたそう。
職人ではなく、作家を選んだ理由。
美山に拠点を構える前に勤めていた長島の蔵元の現社長とは、佐賀大学で出会う。2年先にふたりの作家が、午前中に蔵元の仕事、午後に各自の制作を行うスタイルで活動していたところに、2013年から加入する。「僕はパソコンが使えたので、主に販促の仕事をしていました。作家としてスタートアップを整えてくれた蔵元にはとても感謝しています」と城さん。ここまで、つくば、有田、唐津、長島と、それぞれの土地で知識や技術を学び、人と出会い、それらを活かした作品を制作している。「なぜか、だいたい5年ごとに引っ越ししてますね。飽きっぽいのかな」と、また城さんはほほえむ。
城さんの焼き物は冒頭でも触れたように、素朴でありながら品のある、モダンな作品だ。それは各地で学び得たものを、彼のフィルターを通して作品に落とし込んだ結果といえる。「有田の学校ではデザインから、図面を引いて作品をつくること。型をつかった量産できる技術を学びました」と言い、「唐津では家族経営の窯元が多いんですけど、付加価値をつけて売る。マニアックなものが売れていました」と話す城さん。また、有田焼は職人さんによる分業制で行われており、自らは最初から最後までひとりで手がける作家を志したという。
使う人への想いが作品の機能美を実現する。
陶器もブランドから作家で選ぶ時代になっている今、「大きい窯元もいいんですけど、個人でやるのは時代に合っていると思うんですよね」と城さん。現在は定番アイテムの制作のほかに、さまざまなショップや保育園などともコラボレーションをした作品をつくっている。「使う人が明確だと物の説得力が増すんですよね。オーダーいただくのは同年代の方が多くて、関係性が近いからこそできたのも大きい。いつも誰かのヘルプがなければ、どれも成立しないんです」という。例えば、カレー屋さんからはカレーがすくいやすいお皿、保育園からは子どもたちがこぼさずに食べやすいお皿などを発注されている。彼の作品は、使う人が明確だからこそ機能美が実現されているのだ。
フットワークが軽く、この5年、長島から鹿児島市内までを幾度となく往復してきたという。「作品の取り扱い店舗が、長島から鹿児島市の動線上にあるんですね。やっぱり直接、人と会わないと仕事ができないんですよ。それが弱点でもあるんですけど…。今後は今の仕事を大事にしながら、県外での取り扱いも増やしていきたいですね」と城さんは語る。いつどこでお会いしても穏やかで、同じ温度で接してくださる希有な作家ーー。作家として「玄人っぽさが出せなくて」と笑うが、土に向かう城さんの横顔からは、場の空気が一変するほどの高潔さが漂った。
1979年茨城県日立市生まれ。2003年、図書館情報大学図書館情報学部卒業。大学3年生のとき、陶芸サークルにて陶芸と出合う。2005年、佐賀県立有田窯業大学校専門課程陶磁器科卒業。卒業後、有田焼の会社で商品開発などを経て、佐賀大学にて「ひと・もの作り唐津」プロジェクトの運営を担当。2013年、鹿児島県出水郡長島町にある杉本酒造にて作家活動を開始する。2017年、杉本酒造を退社。現在、多拠点へシフト中である。
Tumblr https://masanorijo.tumblr.com
Instagram https://www.instagram.com/masanorijo/
会期 2018年10月20日(土)~29日(月)
時間 11:00~19:00
会場 GOOD NEIGHBORs
鹿児島市住吉町7-1
※23日(火)、24日(水)は店休日
やましたよしみフリーランスの編集者・ライター。鹿児島県薩摩川内市在住。浜松市出身。
大学卒業後、IT関連企業を経て、出版社、編集プロダクションに勤務。
主に女性向けフリーペーパーや実用書、育児情報誌などを制作。
2011年、東京から鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。
得意分野は、食と暮らし、アート。二児の母でもある。
■ブログ http://yamashitayoshimi.blogspot.jp