2019.09.02
【第25回】音楽のある暮らしを提案する、LAGBAG MUSIC TOGO・上山大輔さん、紘子さん。
音を楽しむと書いて音楽ーー。ピアノ調律師の上山大輔さんと、ピアニストの紘子さんご夫妻が運営するLAGBAG MUSIC TOGOは、それを体現する場所だ。LAGBAG MUSICの由来は、“Ladies And Gentlemen, Boys And Girls MUSIC.”のそれぞれの単語の頭文字をとったもの。おふたりから発せられる音楽への想いは、この名前がすべてを表していた。
音楽が結んだ縁から、LAGBAG MUSICが始まる。
ピアノ調律師の大輔さんと、鹿児島県志布志市にある楽器店の娘でピアニストでもある紘子さんが東京で出会い、ふたりが紘子さんのご実家の楽器店に勤めるようになったのは2009年のこと。そして、8年のときを経て、長女が小学校へ入学するタイミングに店舗をもたない音楽専門店・LAGBAG MUSICを立ち上げた。
楽器店に勤めていた当時も、地域の人たちに音楽を楽しんでいただくための音楽ライブなどを企画。しかし、その活動はなかなか実を結ばなかったそう。「どんな音楽のジャンルでも、とにかくお客さんを集めるのが難しかった。だから、根っこから音楽を楽しめる人を育てていかなければならないと思ったし、それと同時にもっとアーティストの活躍する場もつくっていきたいと考えました。LAGBAG MUSICはそんな種まきをしていこうと思ったんです」と紘子さん。大輔さんはLAGBAG MUSICの運営を通して「音楽のある暮らしを提案をしたかった」という。
LAGBAG MUSICの始まりは、音楽ライブの企画などのほかにイベントへの出店も多数していた。その際のスタイルは、大胆でもあった。販売する楽器のそばにマットが敷かれ、そこにはたくさんの楽器が並べられ“ご自由にどうぞ”というものである。そうするとヨチヨチ歩きの赤ちゃんから小学生くらいの子どもがそのコーナーにワーッと集まり、思い思いに楽器に触れ、音を鳴らすのだ。小さな子をもつ親としては楽器を壊してしまわないかとハラハラする、「楽器は大事に使おうね」と声をかける、子どもが楽器を楽しむ姿を見て妙にうれしく思う。たったひとときでも、子どもと新しいコミュニケーションが生まれ、いろいろな感情が湧く。
私も子どもが遊んだあとに欲しがった楽器を買ったお母さんのひとりである。大輔さんはこの出店スタイルについてこう話す。「子どもが楽器を触っているとどうしても壊れてしまうこともある。けれども、販売と遊ぶコーナーをわけることで子どもも触っていいものとそうでないものがわかるんです」。自身も3人の娘さんのお母さんである紘子さんは「お母さんたちにも気づいて欲しいんです。いまってテレビだったり、インターネットの動画だったり、視覚からの刺激が多い。でも、耳からの刺激は子どもの想像力を養うと思うんですよね」と語る。さらに、「親バカかもしれないけれど、娘たちは外出先でもBGMに敏感。耳からの情報をしっかり記憶しているなと感じる場面が多いんです」とその効果を、子どもたちの成長から実感しているそう。
2018年2月、上山夫妻が拠点としていた姶良市蒲生町に仲間とともに〈classic〉をオープンした。アパレルアイテムや古道具と一緒にLAGBAG MUSICの楽器も並ぶ。「楽器屋さんはほとんど決まった人しか訪れないんです。でも、雑貨屋さんって用事がなくてもフラッと立ち寄ることがありますよね。楽器も生活の中に自然と溶け込んだらいいなって思うんです」と紘子さん。一方、大輔さんも「音楽がある日常はより豊かになっていく。そんな音楽の取り入れ方をみなさんに提案したい」と、想いは一貫している。
鹿児島の音楽の拠点が、LAGBAG MUSIC TOGOとして生まれ変わる。
2019年、LAGBAG MUSICの活動はあらたなる展開に。紘子さんが子どものころにピアノのレッスンを受けていた鹿児島市内にある東郷音楽学院を【LAGBAG MUSIC TOGO】として引き継いだのだった。ここにはLAGBAG MUSICがセレクトした楽器が購入できるショップや、ひと部屋ずつ表情の異なるレンタルスタジオが8部屋、約130名が収容できるホールまで備わっている。また、ピアノのレッスンは初心者から上級者まで幅広く対応し、コンクールの前などの強化補講も受けられる。ほかにも、声楽やマリンバ、チェロ、さつま芸事、作曲、指揮などのレッスンも用意され、今後もレッスン内容は追加予定だという。
せっかくなので建物の中を案内していただいた。古き良き時代のぜいたくなつくりに思わずため息が漏れる。「最初は暗い印象だったんですけど、磨けば明るくなる気がして」と紘子さん。オープンまでの間、自分たちの手で掃除をしたり壁を塗ったり、慣れないDIYにも挑戦したそうだ。さらに、「薩摩芸者の住吉小糸さんが稽古場を探していらっしゃったことがきっかけで和室をつくったんです」と大輔さん。ビルの中にひと部屋だけある真新しい和室では、三味線や歌、踊りなどの薩摩の伝統芸能が学べるのだとか。そのほかのスタジオには、それぞれにグランドピアノやマリンバなどの楽器が配置され、本棚には貴重な楽譜がぎっしり詰まっている様は継承すべき歴史の重みを感じさせる。
思わず尋ねた。「夢が叶った、という感じですか?」と。すると大輔さんは「いや、ここで人を育ててからですね」という。また、紘子さんは「ここはプロフェッショナルの発信地で、東郷先生の時代からクラシックの世界で活躍する有名な音楽家が練習をする場でもあるんですね。でも、子どもたちが良質な音楽、意味のある音楽に触れる場でもありたい。クラシック音楽のコンサートでも、“子どもは騒ぐからダメ”ではなくて、子どもにもここが音楽を聴く場であることをきちんと説明する。だから子ども用の席も用意する。やっぱり本物の音楽を聴かないとわからないから、お母さんたちは遠慮しがちだけど、“どうぞいらしてください”という気持ちですね」と話す。
小学校や中学校では音楽の時間があって、さまざまな音楽や楽器に触れる。高校生くらいになるとバンドを組んで楽器を始める人も少なくない。「音楽はぜひ続けて欲しいと思うんです。いろいろな理由で辞めてしまう人も多いけれど、やっぱり続けて欲しい。それに、一度辞めてもいつからでも再開していい。遊びでもいいんです。音楽をやっていれば音楽が誰かと引き合わせてくれる。音楽にはそういう豊かさもあるんです」と大輔さんは語った。“Ladies And Gentlemen, Boys And Girls MUSIC.”ーー。すべての人に音楽のある暮らしを提案する。
▼店舗情報
LAGBAG MUSIC TOGO(ラグバグ ミュージック トウゴウ)
鹿児島市新屋敷26-23
ホール・スタジオレンタル 営業時間 9:00~22:00
Baiten 1F 営業時間 11:00~19:00
定休日 なし
TEL:099-223-1050
Instagram
@lagbagmusic_togo
※楽器などのレッスンは各種クラスがありますので、お問い合わせください。
▼店舗情報
classic(クラシック)
鹿児島県姶良市蒲生町北370-1
営業時間:11:00~17:00
定休日:火曜~木曜、日曜
LAGBAG MUSICがセレクトした楽器が並んでいるほか、「てげてげ日和」第24回にも登場したHiHiHiのアイテム、古道具やコーヒーが楽しめる「シックな暮らしを提案する」をテーマにしたお店。4つのお店のそれぞれの店主が週替わりで店番をしている。
Instagram
@classic_kamou
やましたよしみフリーランスの編集者・ライター。鹿児島県薩摩川内市在住。浜松市出身。
大学卒業後、IT関連企業を経て、出版社、編集プロダクションに勤務。
主に女性向けフリーペーパーや実用書、育児情報誌などを制作。
2011年、東京から鹿児島へ移住。2012年よりフリーランスとして活動している。
得意分野は、食と暮らし、アート。二児の母でもある。
■ブログ http://yamashitayoshimi.blogspot.jp