2021.11.01
【太陽ガスActions特別対談】人と地域をつなぐ「町の番台」を目指して。 ハマポケが広げる喜びの輪。
日置市の湯之元にある小さな公園「ハマオカポケットパーク(通称、ハマポケ)」に、2021年7月、新しく無料のシェアカフェがオープンしました。そこで今回は、カフェがつくられた経緯や目的をはじめ、地域を楽しくするサステナブルな試みなどについて、ハマポケ管理人の小平勘太さんと、設計・施工を手掛けた建築家の味園将矢さんにお話をうかがいました。
——なぜ湯之元にハマポケをつくったのでしょうか?
小平さん 湯之元は古くから温泉街としてにぎわってきましたが、今ではずいぶん活気がなくなってしまいました。町に新陳代謝が起こらず、若い人との縁が薄い地域になってしまったことが原因ではないかと思っています。
でも、この町のポテンシャルは高いんです。鹿児島の観光スポットをめぐるには車が必要になりますが、湯之元の近くには高速のインターに加えてJRの駅があります。しかも温泉やビーチもあるので、新しいランドマークがいくつかできればいい観光地になると思っています。
味園さん 湯之元はあまり戦災を受けていないので、昔ながらの細い道や古い建物が残っています。風情ある町並みも魅力の一つですね。けれど最近ではそういった建物が取り壊され、駐車場が増えているのでもったいないなと感じています。
小平さん そうした背景があるなかで、祖父母のお店があった土地を地域の役に立てられないだろうかという話が持ち上がりました。そのため、2020年9月に「芝貼りワークショップ」を行い、その後、地域の小さな公園としてハマポケをオープンしました。
——それからどのような経緯で、ハマポケにシェアカフェをつくることになったのでしょうか?
小平さん ランドマークになるような建物があるといいなと思っていたので、カフェ自体はそのうちつくりたいと考えていました。
そうしてアイデアを練っているうちに、さまざまな人が関われるようなシェアカフェにしようと思ったんです。そこで、前述の芝貼りワークショップをお願いした味園くんに声をかけました。21年の年明けのことです。
味園さん シェアカフェと聞いて、二つ返事でした(笑)。
カフェをやりたい人って結構多いんですけど、市場調査がちゃんとできていなかったり、いきなり大きな投資をしたりして失敗してしまう話をよく耳にしていたので、そういった方々が実店舗を構える前にチャレンジできる場があったらいいなと思ったんです。なかなか無料で貸してくれるところはありませんから。
もちろん出店してもらえれば地域に還元されるものがありますし、「最初はハマポケでお店を出しました」というストーリーが生まれるのもすごくいいなと思いました。
珍しい素材と屋根の形。“新しいのに懐かしい”建物
——カフェの設計についてはどのように依頼されたのでしょうか?
小平さん ぼくがお願いしたのは、こんなところにすごい建物がある!というインパクトだけ。あとは全部お任せでした(笑)。
味園さん それはそれはいいお施主さんでした(笑)。
設計は、くらしとエネルギー社の田渕一将さんと共同で行いました。その時に大事にしたのは、新築なのにどこか懐かしくて、町並みに自然と馴染むようにすることでした。古い町並みに新しいものを建てることで、その存在が浮いてしまわないようにしたかったんです。併せて、SDGsといった視点も考慮しました。
その結果、「炭化コルク」という素材を外壁に使用する設計になりました。この素材、使い方によっては石積みに見えると思ったんです。古くから鹿児島には石蔵などの石積みの建物が多くあるので、町に溶け込んでくれるのではないかと考えたからでした。
また、100%自然素材というのもポイント。コルクの木から取り出して、樹脂を使って固め、燻して炭化させてつくるので、ボンドや化学繊維などが含まれていません。外壁に貼ることで断熱効果もありますし、もし取り壊すことになっても自然に還りやすいのです。
鹿児島の文化に則していて、環境にもやさしく、しかも珍しい。たぶん日本全国でも、建物全体に炭化コルクを使っているのは2、3棟ぐらいだと思います。でも勘太さんなら、この先進的な素材を受け入れてくれるんじゃないかと思って(笑)。
小平さん こちらの予想をはるかに超えるものをつくってくれたし、炭化コルクの話のようなストーリー性もあってうれしかったですよ(笑)。それに屋根の形もすごく特徴的で、どの角度から見ても背後の建物が見えにくくなっている点もおもしろいと思いました。
味園さん ハマポケは六叉路の一角にあるので、そうした地形や周りの建物との関係などを考えた結果、屋根が複雑な多角形になりました。商店街からの道を正面として、その他どの道から見ても家の形に見えるようになっています。すごくいい屋根になったと思いますが、その分、工事が大変でした(笑)。
——その他、こだわりのポイントはありますか?
味園さん カフェの顔ともいえる長いカウンターは、ワークショップ形式でつくりました。ワークショップを通して関わってもらうことで、少しでもこのカフェに愛着をもってほしいなと思ったんです。ここでも材料にはこだわって、古い家を解体したときに出た古材を製材して使っています。
工期の都合で平日開催になってしまいましたが、いろいろな方が参加してくれました。そのうちの一人の方は、カフェ完成後に出店もしてくれています。
想像以上の来客数と利用者に、うれしい驚き
——お客さんの反響はいかがでしょうか?
小平さん 目新しいお惣菜やパンを歩いて買いに行けるとあって、近所の方はすごく喜んでくれています。また最近では、インスタグラムを見て鹿児島市内から来てくれる方も増えていて、地域の方と外からの方が半々ぐらいになっています。
世代も幅広く、20代後半から40代くらいの女性、子ども連れのご家族、高齢者の方まで来ています。さらには、ハマポケの裏手にある元湯・打込湯には1日200〜300人の来客があるので、温泉に入ったあとに何かを買って帰るという導線もできています。
——利用者さんからの反応はいかがでしょうか?
小平さん いま出店されているのは25組ほどですが、新しいチャレンジが気軽にできると好評です。また、新規のお客さんに出会えるという点も喜ばれていますね。オープンすると1日40組ぐらいの来客があって、午前中で売り切れてしまうこともあるそうです。
予約状況としても7割は埋まっています。特にテレビの取材を受けてからは、姶良市や霧島市などいろいろなところから問い合わせをいただいています。
——たくさんの方に利用されていますね。
小平さん 正直、何かに取りつかれたようにつくってはみたものの、誰が出店してくれるんだろう、お客さんも来るのかな……と思っていたので、びっくりしています(笑)。
味園さん うれしい驚きですね(笑)。でも、とても価値のある取り組みだと思っています。ほぼ毎日のように誰かがこのカフェをオープンさせてくれていて、すごく活気を感じます。それもずっと同じ人ではなく、いろいろな人が入れ替わり立ち替わり、それぞれの夢や希望をもって自己実現の場として使ってくれているのがすごくいい。
小平さん 利用者さん同士のLINEグループでもさまざまな情報交換がされていて、一つのコミュニティができています。そして何と、シェアカフェをご利用後にお店を出される方がこの秋に誕生します。しかも湯之元に!この流れは本当にうれしいですね。
みなさんの参加が、ハマポケをおもしろくする
——カフェの展開について、新しく考えていることはありますか?
小平さん 地域と外をつなぐ「町の番台になる」ことがカフェの目標なので、現状の課題を改修しつつも、薩摩焼の陶工さんや大漁旗をつくる染色屋さんなどと協力してオールローカルな取り組みを進めていく予定です。また今後、インスタグラムのフォロワーさんが3,000人くらいまで増えればメディアとしても十分に機能するので、積極的に活用していこうと思っています。
それに加えて、多言語のコミュニケーション展開を考えています。コロナ以前は外国人観光客も多かったので、このカフェをハブにして湯之元のおすすめスポットを伝えていければ、インバウンドの集客にもつながるのではないかと思っています。
サステナブルという面についても、年末までにカーボンフリーの電気で動かすように準備をしています。さらには来年の夏を目指して、太陽ガスがさつま町でつくっている小水力電力を組み合わせることで、地産地消かつ再生可能エネルギー100%で動く施設にしたいと考えています。
——ハマポケの展望を教えてください。
小平さん 将来的には、ギャラリーとAirbnbのような施設を追加したいですね。3つの施設があれば、町として機能しますから。
とはいえハマポケは、小平株式会社の社会貢献活動やPRの一環でもあるので、地域に貢献しながらもどうビジネスにつながるのかが必要になります。そのため、たとえば太陽ガスと共に取り組んでいる電気事業の契約者数が増えたら、その収益の一部をハマポケの基金に当てるといった仕組みを考えています。きちんとビジネスの役に立てることで、ハマポケの無料利用の継続や新しい施設づくりなどに還流できればと思います。
味園さん そうした改修や工夫の先に、このシェアカフェが生き物みたいに自走していくといいなと思っています。使う人たちがどんどん増えていって、この場所が長く続いていくことで、みんなの思い出に残る場所になってほしいなと思いますね。
いま娘が3歳なんですけど、成人する時にもこの建物がちゃんとあって、幼いころに来た記憶を覚えてくれていて、一緒にクラフトビールなんかを飲めたら最高だなって(笑)。
小平さん ぼくも温泉に入ったあと、ここでクラフトビールを買って飲んだときは一つの達成感がありました(笑)。地域貢献という考えも大事ですけど、やっぱり一人の住人として、住んでいる地域を楽しくしていきたいなと思います。
——最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
味園さん まちづくりやSDGsといったことがよく話題にのぼりますが、実はそこに対して建物の力ってほとんどないんです。もちろん良いものであることは前提ですが、それより大事なのは人の想いや熱量があること。結局は「人」なんです。人と建物の足並みがそろったときにはじめてうまくいくと思うので、ハマポケにもたくさんの方に関わっていただけたらうれしいですね。
小平さん そもそもハマポケ自体が参加型のプロジェクトです。シェアカフェはすごく敷居が低いので、新しいことにチャレンジしたい方はぜひ気軽にご連絡いただきたいですね。もちろんお客さんとしても大歓迎です。やっぱり何事も、参加したほうが楽しいですから。
【ハマオカポケットパーク シェアカフェのお申し込み・ご利用案内はコチラ!】
https://hamaokapark.com/howtouse/
小平 勘太
小平株式会社代表取締役社長
ハマオカポケットパーク管理人
湯之元温泉組合アドバイザー
小平株式会社はエネルギー、貿易、IT、ガソリンスタンドなどの多角的なビジネスを手掛ける総合商社で、太陽ガスの兄弟会社です。湯之元のまちづくりには、祖父母のお店があったこと、3年前に引っ越してきたことで関わるようになりました。
味園 将矢
37design代表
くらしとエネルギー社共同代表
設計者でありながら、大工としても現場に入るちょっと変わった働き方をしています。鹿児島県内のさまざまな地域で、新築住宅をメインに、店舗の改修、まちづくりなどに携わっています。喜入町の出身ですが、4年前から日置市に住んでいます。