2021.09.24
【太陽ガスActions特別インタビュー】-食が繋ぐ人と地域- 日置から始まるサステナブルな社会づくり
日置市にあるイタリアンレストランESPRE(エスプレ)は、完全予約制でお任せコースのみ。
実はこのスタイルは最高の味を提供するためなのはもちろんのこと、持続可能な食文化と飲食業界の未来を救うことに全てつながっているんです。
今回お話を伺ったのはオーナーシェフの橋口雅宏(はしぐちまさひろ)さん。1万人以上が訪れるフードフェス「OLIVER LAND」の発起人でもあります。橋口さんのお話は、地産地消やフードロス、人材育成、地域おこしなど、私たちが向き合わねばならない社会の課題を解決するヒントに溢れていました。
ビデオ通話であることを忘れる熱量で橋口さんとのインタビューは盛り上がった
——料理との出会いは何でしょうか。
小さい頃に佐賀県から引っ越してきたので、人格形成は完全に日置です(笑)。
高校を出た後は、福岡市で音楽関係の仕事をしていたのですが、正直フラフラしていた時期で、いつのまにか飲食業界で働くようになっていました。父も料理人でしたし、私自身も幼少期から台所に立つ機会が割とあったので、料理はいつも頭の片隅に残っていたのだと思います。
いざ始めてみたら手応えがあって、続けるうちに自分の料理の腕に自信も感じていたのですが、ある時フレンチとイタリアンと出会ってからそれがただの慢心だと気付きました。完全に鼻っ柱を折られたんです。そこから火がついて、どんどん料理にのめり込んでいきました。
とある日のESPREの一品
——日置でESPREを始めることになった経緯を教えてください。
20代の修行中は、結果的に9店舗近く渡り歩きました。
当時はとにかく料理や飲食経営のノウハウを吸収することに必死で、まわりのことはあまり気にできていなかったし、人脈がいかに大切かということもわかっていませんでした。
しばらく経って独立を考え始めたのですが、その時はまだ日置に戻ることは考えていませんでした。しかし、一度同業である父に相談してみようと帰ってきた時に、偶然面白い物件と出会ったんです。
気になって問い合わせてみたらこれが大変率直な大家さんで、「誰も続かない物件なんだけど、その代わり格安で貸すよ」と言われたんです。
当時は若くて資金もまだありませんでしたから、安いことは何よりも魅力でしたし、そんなにも縁起の悪い物件で長く続けることができたら自分はその先も大丈夫、という運試しの気持ちもあって、勢いに任せて最初のESPREをオープンさせました。
結局その場所で7年続いて、さらに今の場所に移って11年。今ではすっかり日置がホームですね。
リラックスして料理を楽しんでほしいという橋口さんの想いが窺えるESPREの穏やかな空間
——なぜESPREにはメニューがないのでしょうか。
なによりも旬のものを味わってほしいからです。
日本には四季があります。
そして食材の旬はさらに細かく、大体12に分けることができます。
決まったメニューリストを置くということは、旬ではない食材も常にお出しできるようにするということ。完全にお任せいただくことで、ご来店いただいた瞬間に最も旬な食材を、我々がベストと考える調理方法で提供できるんです。
「ESPREに来れば、必ず旬の食材と新たな味に出会える。」
それを楽しみに繰り返し来られるお客さまがたくさんいます。
お店としては苦悩と解放の連続ですが、お迎えする度に自分のやってきたことは間違っていなかったと思えます。
素材そのものの魅力が活かされた盛り付け
また、私たちのやり方は飲食業界におけるたくさんの課題を、根本から改善できる可能性があるとも考えています。
まず、完全予約制のお任せコースというのは、必要な分をその都度仕入れるので廃棄が減らせる。いわゆるフードロスの解消に繋がるんです。
食材は広く各地から仕入れますが、地産で良いものがある時は積極的に取り入れるようにしています。仕入れには自ら出向くことも多いですが、そうすると作業を手伝う機会も生まれて、食材とつくり手に感情移入することができる。
そしてなにより、確実に価値のあるものを、適正な金額で、必要な量だけ仕入れることができます。これによって、多くの店で発生しているような大量の在庫確保や廃棄にかかるコストを減らし、その分をお店や生産者に還元できるわけです。
飲食業界は、長い労働時間、安い賃金、体育会系な人間関係、そういったイメージがすっかりついてしまい、人材が減り続けているのを肌で感じています。正当な対価を払えるようにする仕組みづくりは、優秀な人材を育て、流出を抑えていく上でとても重要なんです。
——橋口さんたちが始めたフードフェスティバル「OLIVER LAND」について教えてください。
天邪鬼なのかもしれませんが、おしゃれだけど若い人しか楽しめないイベントが多い状況に抵抗を感じていて、もっと老若男女問わず出かけたくなる、テーマパークのようなイベントがあったらいいなとずっと思っていました。
どうせ無いなら自分たちでやってみよう、という気持ちが強まって“子どもから大人まで楽しめる夢の国”というコンセプトで、食を軸にしたイベントを立ち上げることにしたんです。
看板に描かれたイラストマップがテーマパークのように気持ちを盛り上げる
やる以上は社会に一石を投じたいと考え、内輪で満足して終わるイベントにならないよう動員数を設定し、回数も最低10回はやるとまず決めました。
しかし実際に民間の飲食団体だけでやり切るのは非常に難しい目標です。市の協力を得るために掛け合ったのですが、なかなか具体的な交渉まで辿り着かず…。それでも粘り強く何度も出向いているうちに、「あなたが本気なら私が一緒にやりましょう」と言ってくれる方と出会えました。
行政機関と一緒に何かをやるのは制約が多くて大変だよ、というネガティブな意見も周りにはありましたが、市が枠組みをつくり、我々が中身を充実させる、というように役割をすっきり分けてイベントを実現できたことは、今でも間違っていなかったと思っています。
OLIVER LAND当日、メディアの取材に答える橋口さん
——「OLIVER LAND」の特徴はどのようなところでしょうか。
もともと私たちには、その場でしか味わえないフード体験が集うイベントにしよう、というコンセプトがあり、一方の日置市は、第6次産業としてオリーブ生産に非常に力を入れている最中でした。
イベントを提案しはじめた頃、ちょうど市がオリーブをアピールする良い方法を探していましたので、それならば出店者に日置のオリーブを使ったその日にしか食べられない限定メニューを考えてもらうようにしよう、ということにまとまったんです。
そういった経緯もあって、ノアの方舟に登場するオリーブをくわえた幸福の白鳩の名前「オリヴァー」と、ディズニーランドのようなテーマパークを象徴する「ランド」を組み合わせた「OLIVER LAND」というイベント名になりました。
さまざま制約の中からたくさんの新メニューが誕生した
蓋を開けてみれば大盛況で、2019年の2回目には1日で1万3千人の来場者が訪れるイベントになりました。
出店者にとっても、ただ売上を求めるだけではなく、オリジナルメニューの開発を通じて互いに切磋琢磨してもらう場になっています。初回以降出店希望は増え続けていますが、この主旨を理解してくれるかどうかを基準に参加してもらっています。
橋口さんの意思に共感して、世代や立場を超えた仲間が「OLIVER LAND」を支えている
——新しく設立されたH&WORKERSについて教えてください。
官民が両輪となって「OLIVER LAND」の運営を行う体制が築けたことは、間違いなく成功でした。
しかし同時に、そこで培われた人脈を活かして食を軸とした事業を広げていける可能性も生まれたため、志を共にする同業・異業の仲間と法人をつくることにしました。
「OLIVER LAND」を牽引した経緯で私が代表を務めてはいますが、年齢的にも立場的にも幅広い人たちに関わってもらっています。
——今後はどのような展開を考えているでしょうか。
「OLIVER LAND」はもちろんのこと、引き続き地域のPRとなるような事業や、施設やイベントのプランニング、そしてデジタルの力で日置にしかないものをここからダイレクトに届けていきたいと考えています。
今は荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが、ゆくゆくは世界中から出資が集まる、食のユニバーサルスタジオのようになりたいですね!
——太陽ガスとはどのような連携を期待されますか。
太陽ガスさんは、ガス事業を中心に地元を長く支えてこられた、誰もが知る大手企業です。
日置市は今、若い事業者にとって、ある意味なんでも始められる自由さもありますが、サポートがないために、アイデアの実現には大変な踏ん張りが必要な状態でもあります。
そういった人たちに柔軟に手を差し伸べて、一緒に日置市のポジティブな部分を増やしていきたいと思っています。
当然私たちの事業におけるインフラ面のサポートをお願いしたり、逆にイベントやPRなど、プランニングでお手伝いするような関係もぜひ築いていきたいです。
——
橋口さんには、食とそこに関わるすべての人への「敬意」があります。
別々に見えるさまざまな活動が、全てその「敬意」という一本の線でつながっていることがわかるお話が伺えました。
日置から私たちの未来の食を変えていく橋口さん、今後の活動からも目が離せません。
10/31(日)OLIVER LAND開催!
詳細はイベント公式サイトまで!<
※この取材は適切な感染症対策を行った上でビデオ通話で行いました。